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乳がんの告知後、
いきなり暗闇に放り込まれた気がしました。
でもどうせ短い命なら、
やりたいことをやって生きたい!
という素直な声が、肚の底からわいてきました。
「今のありのままの姿を残しておきたい」
プロのカメラマンとメイクさんに写真を撮っていただき、私は生きる力を取り戻していったのです。
そして同時に、同じような状況の女性の写真を
撮り、多くの人に知ってもらいたい、と思いました。
乳がんや脱毛症などの病は、とても身近な病です。
だからこそ、自分のことを後回しにせず、身体と心に素直に、
自分の“生きる”と向き合ってほしい。
そんな想いを込めて、このプロジェクトをスタートさせました。
今回、私の想いに賛同してくださり、多くの方から
ご支援・ご協力をいただくことができました。
また、15組の方々が撮影に参加してくださいました。
「髪の毛がない」というのは、ひとつの個性。
逆にその人の輝きや、本質の美しさ、純粋さが
シンプルに伝わってきます。
写真展にご来場いただいた皆さんが、
「よし、もう少しだけ自分に正直に生きてみよう!」と
思えるような、そんな写真展にしていきたいと思っています。
プロジェクト発起人・主催
髙橋 絵麻
《告知から1 ヶ月》
〜目の前にぶら下がる死の恐怖〜
異変を感じたのは、次女の出産を1ヶ月後に控えた2015年5月のことです。
右胸に痛さを伴う腫れものができました。
次女を抱きながら診断結果を聞きました。
「癌かもしれない」ネットであれこれ調べていて、
もうどうあっても受け入れるしかないと頭ではわかっていても、
本当にその事実を突きつけられた時は頭がパニックになっていました。
診察室を出ると看護師さんが「大丈夫?」と言いながらそっと背中に手を置いてくれました。
そこで一気に感情が溢れました。涙が止まらなかった。
子供や主人、両親やお友達。大切な人たちと離れなきゃいけないかもしれない。
私はいつまで生きられるんだろう。子供の成長はいつまで見られるんだろう。
私が死んだら主人は、子供たちは、それをどう受け止めるんだろう。
目の前にいきなり死がぶら下がり、治療やこれからのこと、先の不安に心が押しつぶされていきそうでした。
《副作用と、決意》
〜カミングアウト〜
抗がん剤治療を初めた直後から、辛い副作用が容赦なく襲ってきました。
止まない頭皮痛、立っている事も難しいほどの吐き気や眩暈。
心も落ち込み、「歯磨き」と思ってから「しなきゃ」と立ち上がるまで30分もかかりました。
髪は抜け落ち、何もかもスッキリしたいと耐えられず頭を丸めました。
最初はウィッグを購入しました。
でも私の場合は副作用の頭痛がひどく、1時間被っているのがやっとでした。
病気のことを隠せば隠すほどかえって辛くなりました。
まだまだ子供は小さく、公園でのママ友に会った時の何気ない子どもの成長話。
「私は見れないのかもしれない」そんなことが頭をよぎり、人知れず泣いたことも一度や二度ではありませんでした。
髪型が変わったことで、周りからどう見られてるだろう。。
どんどん表情が暗くなり、それは自分だけでなく、少なからず主人や子ども、家族にも影響していったと思います。
耐えきれず、告知されて1ヶ月半が経った頃、周りに話そう!決めました。
私の心を自分で守るため。そして子どもと主人のことも守るため。
更に私のように妊娠授乳期で見逃されている人が少しでも減ることを願って。
でも、「私、がん患者なんです」と個別で話していくのは、自分にも相手にも相当なストレスになるし・・・
色々考えて、自ら明るく発信することにしたんです。
その方法が「しこり触ってねキャンペーン」でした。
《カミングアウトは生きる力へ》
〜しこりに触れて欲しい、知って欲しい〜
カミングアウトしてからたくさんの応援をいただきました。
もともと人と話すのは大好き。
見た目を気にせずに話をできることで、私は「生きる力」を取り戻していきました。
手術までの約半年間、私は活動を続けました。
支援センターやヨガの教室、お話会などに積極的に顔を出し、しこりに触れてもらいました。
これまでしこりに触っていただいたのは約250人。
キャンペーンでじぶんのおっぱいを触るようになり、
検診に行った方、乳がんがわかった方、話を聞いて自分をもっと大切にしようと人生の転機になった方、
乳がんである自分をやっと受け入れられたとご連絡いただいた方、様々いらっしゃいます。
また、しこりを触ってもらいながら「自分を大切にして欲しい。
もっと自分を知って人生を楽しんで欲しい」そういうメッセージを伝えてきました。
フェイスブックにもメッセージ動画をUPし、さらに自分のこと、病気のこと、家族のことを包み隠さず書きました。
全摘手術を受け、もう「しこり触ってねキャンペーン」はできません。
でもこれからも生きるを伝える活動は続けていきたい。
たくさんの方に伝えられる私なりの方法はなんだろう。。
色々考え行き着いた先が、この写真展開催でした。
《もう一つのきっかけ》
〜友人の一言の衝撃〜
ずっと写真展をやりたいと考えていました。
私は写真の持つ力に支えられてここまできた気がします。
どういう形が一番伝わるんだろう・・・
あれこれ考えて、ここにたどり着きました。
でもなんで髪の毛を失ったスキンヘッドの女性に絞ったかというと・・・
きっかけは昨年亡くなった乳がんのお友達が言ったことでした。
「主人からは僕の前でウィッグを脱がないでと言われてるんです。。。
ウィッグは脱げないんです。娘も小学生でお友達に言われたりするだろうし、
主人からも僕の前ではウィッグ脱がないでと言われて。」
そんな彼女はなんだかいつも申し訳なさそうにしていて、夏でもウィッグに帽子でした。
初めて聞いた時は、正直、え!?っと思ったんです。
でも自分を置いて逝ってしまうかもしれないパートナー。
小学生の娘を自分1人で育てていくかもしれない不安。
それを直視できなかったのかなと、支える側の辛さも垣間見えた気がしました。
《写真展とその後の未来の話》
〜オープンな社会を目指して〜
病気に対してのイメージを和らげたい。
オープンな世の中を作り、治療以外の余計な負担を減らしたい。
これまで治療を続けながらも、いろいろなことをしてきました。
北陸は主要都市と違って、まだまだ閉鎖的な雰囲気が残る土地。
なかなか私のような若い世代のサバイバーと直接繋がる場所が少なかったんです。
だから出入り自由の非公開サークル『I am』を作りました。
(共通点は病とともに生きていること。どんな病の方も入れるFacebook上のサークルで、福井では1、2月に一度ランチ会などを開いています。)
その活動に加え、いま力をいれているがん教育などの発信を地道に続け、だいぶこの福井でも、病気に対する理解や、オープンにすることへの不安感を和らげられてきた気がします。
それでもまだまだこれからです。
今回は写真の力と共に、見る方の『生きる力』を引き出していきたい。
たくさん坊主の女性を見ていたら、受け容れる気持ちも少しは持てたのかもしれない。
そしたらありのままでいられる安心感を感じて、もう少し楽にお家で生活出来たのかな。
(実際は出来ていたのかもしれないし、私の勝手な解釈も入ってると思います。)
そんな気持ちから、スキンヘッドの女性の写真展を開催したいと強く思ったんです。
公表してからさまざまな方と繋がりあうことが出来ました。
抗がん剤の副作用の脱毛だけでなく、多発性脱毛症や抜毛症でスキンヘッドになる女性、先天性で全身の毛がない美しい女性。
皆さん自身を受け入れ輝いていました。
新しいおしゃれを楽しみ、前を向き、そこにはまだ知らなかった世界がありました。
そして彼女たちもまた、いきなり病にかかり、見た目の問題から心が苦しかった時期があったということを知りました。
がん患者だけでなく、そうした病で髪の毛がなくなり不安を抱えた方がどれだけこの世界にいるんだろう。
多分全体で見たら少数派(マイノリティ)だと思います。
でも、こちら側になる可能性は全ての方が持っています。
だからこそ人々への理解を深め、社会の病気に対する偏見や差別を解消し、
距離をなくしてゆけたら。理解のある世界に変化していけたら・・・
私はこの写真展で、ありのままで生きる素晴らしさ、それぞれの生きるの形をたくさんの方に見てもらいたいと思っています。